2004/01/27

邂逅(中学生図鑑Part3)


 才色兼備で注目度ナンバーワン、あれよあれよの間に「B地区」出身の男子生徒たちにも憧れの的となったような級長・真紀。その真紀と、なぜか『H小』出身者の誰よりも親しくなっていたのが千春である。

長身でスリムな真紀とは対照的なポッチャリ型で、真紀にも劣らぬ色白の肌は艶々と白光りしているかのようである。サラサラの美しい髪に、透き通ったソプラノも魅力的であり、外見に関してはどこから見ても真紀にも決して見劣りのない美少女であった。

言うまでもなく、男子生徒では注目度ナンバーワンのにゃべっちであり、級長同士の誼で真紀とはそれなりに親しく会話を交わすまでの仲になっていた。そのため、いつも真紀の傍にいる千春とも次第に言葉を交わす機会が増えてきたのも、自然の成り行きと言えた。小学校の違う真紀とはともかく、千春とは同じ『B小』ながら不思議にも一度も同じクラスになった記憶がなかっただけに、千春の存在を知ったのもこの時が最初であった。

(『B小』には、香や小夜子にも匹敵するような、こんなかわいいコがまだいたっけ・・・)

という思いで

「オマエって『B小』にいたっけ?
『H小』じゃねーのか?」

と訊いたところ

「酷いねー。
同じ『B小』なのに・・・」

「そーだっけ?
全然、知らんかった」

「フ~ンだ、嫌な子。
でも私はアンタの事、知ってたよ。
だって1年生の時から、有名だったし・・・」

そして千春は『H小』出身の真紀に、俄かに要らぬ説明を始めた。

「このコねー、こう見えてもウチの学校じゃあ

『何年かに一人の神童だ!』

とか、先生たちに随分と持て囃されていたのよー」

「へー、そうなんだ・・・」

「私は遠目にしか見たことなかったけど、すっごくカワイかったしね。あの頃は、遠目にもオーラが出てたなー。で、実際どんなコ? って思ったんだけど、訊いたところではかなりの変わり者だって。実際、ホントにこんなヘンなコだったとは驚いたけどね。アハハハ」

天真爛漫な千春は、いつもこんな具合に思ったことをズバズバ口にするのである。ところがこの千春、なぜかにゃべっち友人であの偏屈者のオグリがことのほか好みらしく、なにかと絡んでいた。お互いが友人同士だけに、これは『にゃべっち&真紀』と『オグリ&千春』というコンビが出来てもおかしくない雰囲気だと密かに期待した。ところが、案に相違してオグリの方が気性が激しいせいか、おとなしいタイプの女の子が好みらしく「じゃじゃ馬」タイプの千春はどうもお気に召さない様子なのだ。

男子生徒の間での呼び名だった《グリ》を、あの千春の美しい声で連発されるのは、傍から見れば羨ましい限りだが

「何が《グリ》だ、バカヤロー。どうもアイツは、馴れ馴れしくて腹が立つ」

などと、常々怒っていた。にゃべっちの眼には正直、友人オグリとはいえ、千春は勿体ない気がしていたのだが・・・

 千春との出遭いは『B中』入学後である。6年間同じ『B小』に通いながら、一度も同じクラスになったことがなかったため、それまで彼女の存在を知らなかった。中学で初めて出逢った千春は、大人びた美貌に加え大柄な上背、そしてはちきれんばかりの若さがセーラー服にピッタリフィットし、目の醒めるような美しい女学生だった。彼女の最大の魅力は、なんといっても目を瞠るような日本人離れした白い肌だ。真紀も相当に色が白かったが、千春のそれは艶々と白光りしており、当時はあたかも後光が射しているかのように見えた。ふっくらとした顔立ちに、モチモチとした白い肌には若さが溢れ非常に清潔な雰囲気が魅力である。

これで目がパッチリしていたなら、それこそは頭に描く理想の女神像にかなりマッチするところだったが、こればかりは案に相違して切れ長の一重瞼で、やや険のあるキツイ感じが特徴である。ところが人間とは勝手なもので、次第にこのどことなく涼しげにも見える、不思議な千春の眼に惹かれていくことになるのだったが・・・

千春の家は『B中』からは、ほとんど目と鼻の先といった距離にあったらしい。

「ウチから裏門まで23分くらいなんだ」

と訊いていた。子供の頃から、朝が極端に弱いこちらは

「家からは『B中』の校舎が見えるし」

という話を訊いた時は

(そんなに近いなら、楽でいいな)

と単純に決め付けていたが、体操部だった千春に言わせると

「部活をズルして家にいたりすると、グラウンドでランニングしてる女子の掛け声が聞こえて来るから、サボれなくなっちゃうんだって」

と笑っていた。

千春は成績もそこそこ上位で、運動神経もなかなかに優れており、なにより芸術性に最も高い才能を備えていた。このように、万事にそつがないタイプと言えた。英語をマスターした後に声楽を始め、ついにはオペラ歌手になってしまったと後に訊いた時は、さすがに驚いたものだったが。もっとも、反面では「アイツなら有り得るか・・・」という納得の思いもあったように、当時から器用さと根性は確かに備わっていた。

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