小学5年生の時、A市の「小学生作文コンクール・高学年の部」で「最優秀賞」に燦然と輝いた神童にゃべ。
元々、筋金入りの怠け者だけに、自ら進んでこうしたイベントに参加をするような事は考えられなかった。ところが中学3年生の年には、国語の宿題として「A市読書感想文コンクール」への作品提出が義務付けられた。
貴重な自由時間を割いて、気の進まぬままにしぶしぶと書き上げた作品だけに、決して傑作とは言い難かったが
(手抜きとは言え、オレほどの文才を持った中学生がそんなにいるはずはない・・・巧くすれば、今回も「金賞」を戴きか?)
などと密かに、都合のいい目算を立てていたものだった (*Φ皿Φ*)ニシシシシ
しかしながら二匹目のドジョウを掴む事は叶わず、結果は「銀賞」に終わった。
【A市 読書感想文コンクール・入選者発表(中学生の部)】
金賞:スズキマイコ D中3年生
銀賞:カトウマサユキ A中3年生
にゃべ B中3年生
入選:シガユウイチ E中3年生
xxxx C中3年生
ニシカワメグミ D中3年生
オオミヤマキ C中3年生
xxxx A中2年生
(クソ・・・こんな事なら、もっと真面目に書いておけばよかった・・・)
と後悔しながら、発表された同じ銀賞の一人の作品を読んで
(この程度のものなら、いくらでも書けるわ・・・
やはり真面目に書けば、絶対にオレが金賞だったのだ・・・)
と後悔と納得をしつつ、再度「入選者一覧」に目を転じていくと、そこには1年生の時にクラスメートだった真紀の名が載っていた。が、残念ながら、感想文が載っているのは金賞と銀賞のみだったから、真紀の作を読むことは出来ない。
最後に金賞の女学生の作を読み始めた。
期待はしていなかったが、読み始めて
(これが金賞なら、オレの方が遥かに・・・)
と、3度目の欠伸を噛み殺そうとして、物語途中からようやくにしてその作品の真価に迫った。
そこには心に深い闇を抱えた少女の、精神の深い葛藤が巧妙な筆致で見事に描かれ、思いもよらずその作品世界に一気に惹き込まれたにゃべは、息つく暇もなく一気に読破してしまった。
(これが本当に、中学生の作か? いや、素人の書いたものなのか・・・?
テーマは一見平凡だが、その実これだけの深い精神性を奥深くまで掘り下げたメインテーマを、周到なオブラートに包み込んでいる二重構成だ。もしかすると内容充実度だけでなく、文章そのものもオレより上手いかもしれん・・・)
素人離れのした枯れた筆致と文章力であり、ムラカミなど高い読解力を持った者たちからも、同じような意見が聞かれたのも無理はない。自分の文章力には自信を持っていただけに、これは大きな衝撃であったと同時に、また「親か姉さんが、代筆したのではないか?」という噂がもっぱらだった。
同じ疑いを持っていたにゃべは、その後も何度か繰り返して読んでみたが、その一見枯れたように筆致の中に、確かに年頃の学生でなければ書けないような、清潔で熱い情熱の息づきを垣間見た。何度読んでも色褪せることのない魅力的な名文が、控えめな中にも生き生きと躍動して輝いているのである。
悔し紛れに、ムラカミに
「あの金賞は、親か姉さんが代筆したんだろう?」
と、カマをかけてみると
「そーだよな・・・と言いてーところだが。オマエも、わかってるんだろう・・・」
と、やはりムラカミの慧眼は「真作」であることを看破していた。
「これまでの受賞歴もあるしな・・・」
確かに、彼女の「受賞歴」は凄かった。
にゃべが「最優秀賞」を受賞した、小学5年生のときの「作文コンクール(高学年の部)」では、6年生を押しのけての「優良賞」、さらに翌年の「読書感想文コンクール(小学校高学年の部)」(にゃべは、この年はサボタージュ)では、金賞に次ぐ「優秀賞(主席)」を受賞していた。さらに遡れば、小学4年生(中学年の部)で「優秀賞」、2年生(低学年の部)では「優良賞」と、まさに「輝かしい受賞歴」だ。
そして極めツケが、この「中学生の部」での「最優秀賞」で、これは全国審査へ進んで「優良作品賞」を受賞という快挙だった(2年生の時も「入選」を果たしていた)。さらにコンクール最後となるこの年も、本県から唯一の入選者として見事「銀賞」を射止めていた。
(こんな凄いやつがいたとは!
これは、なんとも・・・あんなやっつけ仕事のようないい加減な気持ちで書いた作で、同じ土俵に上がっただけでも恥だ)
と、激しい後悔に苛まれながらも
(それにしても一体、どんなヤツがこの作を書いたのだろうか・・・?
是非とも、お目にかかってみたいものだ・・・)
元来が負けず嫌いのにゃべではあるが、この時は嫉妬以上に
(この文章を書いたヤツこそ真の天才かも・・・どんな人物か、是非とも実物に逢ってみたい)
という真摯な欲求に駆られ、いつにもなく授賞式を密かに楽しみにしていたのだったが・・・
授賞式では、久しぶりに真紀に会うことが出来た。
「にゃべ、ひさしぶりー! 銀賞って、さすがだねー」
「いや、言い訳すれば面倒だから適当に書いたヤツだ。真面目にやればよかった・・・」
「やっぱり、そんなことだろうと思ったわ。適当でも銀賞なのね・・・」
と、真紀は呆れていた。
「そーいえば、にゃべは小学校の作文コンクールは『最優秀賞』だったんだよね?」
と、さすがに良く知っていた。
「それで・・・金賞のヤツは読んだ?」
「読んだ読んだ・・・あれは凄かったよ。泣いちゃったよ」
「うちの学校では、あれは親か姉さんが代筆したんじゃねーかって、噂になってるが・・・」
「あ・・・うちもそーだよ」
「で、どー思う?」
「うーん、あれが同級生が書いたと思うと悔しいけど、大人の書いたものじゃないと思うんだ。私はやっぱ、自作だと思うけど・・・にゃべは?」
「うん、まあな。だから、今日はどんな天才がお出ましになるか、昨日から楽しみにしてきたんだ」
「えーっ? 私もー」
と、やはり真紀も同じ思いのようだった。
ところが蓋を開けて見れば、なんとも拍子抜けのすることに、肝心の主役が「病欠」で姿を見せなかった・・・
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