連日うだるような暑さが続く中、その日は珍しく朝から激しいにわか雨のようなどしゃ降りがあった。東京に滞在を始めてから2週目のこの日まで、一時的なにわか雨のようなものは2、3度あったが、ちょうど外出中に雨に降られる事がなかったため、傘を持っていなかった。
午後一番で出掛ける時は、幸いにして止んでいたから
(ともかく様子を見ながら飯田橋まで行って、必要なら飯田橋構内で売っているだろう・・・)
という目算が図に当たり、飯田橋の駅では「鉄道忘れ物販売」の店に、安傘が沢山並べてあった。500円也でジャンプ傘を手に入れ、乗り換えのため駅構内を移動して、地下鉄へ向かうエスカレーターに乗っている時に「事件」は起きた。
昼過ぎとはいえ、JRと地下鉄がいくつも乗り入れるターミナルの飯田橋は、いつものように混雑していた。特に急ぐ必要はないので、エスカレーターの右側を急ぎ足で上がってくる乗客を尻目に左側に寄って、ボンヤリと考え事をしながら傘をエスカレータ端の隙間に挟んでいた。やがて、エスカレーターが上に到着しようかというところで、隙間に突っ込む形になっていた傘を抜こうとすると、いつの間にかガッチリと隙間に食い込んでいて、力任せに引き抜こうにも抜けない。
(う・・・まさかまさか・・・)
いよいよエスカレーターは上に達するところまで迫って来て、なおもしぶとく食い込んでいる傘を引っこ抜こうと格闘していると、ナント
「ブーッ、ブーッ!」
という警告音と共に、エスカレーターが止まってしまったではないか・・・右側を通り抜けていく乗客の視線が、なんとなく胡散げな雰囲気を纏いながら、一人左側に寄ってゴソゴソとやっている変な男に留まらぬはずはない。
ここに至って、さすがに厚かましい男(?)も慌てた。
(こりゃ、エラい事になるかも・・・)
と切羽詰った挙句に乾坤一擲の馬鹿力で思い切り引っ張ると、ようやく抜けた。その間も慌しそうにエスカレーターを駆け上がりながら、チラチラと視線を寄越す乗客に紛れて、停止したエスカレーターを何食わぬ顔で上がっていった事は言うまでもない。買ったばかりの傘の先っぽの方は、人知れぬ格闘を物語るかのように、極めて不自然な形にひん曲がっていた。
無気味なほどに、どこからも声が掛からなくなった週末を使い、ネットで新たなクライアントを探して出直しを誓った3週目。8月に入り、次の週からは世間がお盆休みの期間に入り活動がし難くなるのに加え、仮の住居の契約も次週半ばで切れてしまうため、なんとかこの週のうちに仕事を決めてしまうか、最悪でも目鼻だけは付けておきたい。
そうした追い詰められつつある厳しい状況の中で、横浜の大手メーカーからのオファーが入ったのを皮切りに、前週後半の沈黙が嘘であったかのように再び各所から面接依頼が舞い込んできていた。
八王子のネットワーク設計・構築、府中金融系のネットワーク構築、竹橋金融系のネットワーク改善コンサル業務、浜松町F社の外部向けサーバ管理リーダー、大崎の設計コンサル、恵比寿のネットワーク系SEといったオファーが入り、大手町の銀行系Mグループの方は辞退する。続けて早々に回答を求めて来た竹橋金融系は担当者の対応に不満があり、また八王子のネットワーク設計・構築と、大崎の設計コンサルは難易度の高さを感じ辞退を申し入れた。
府中金融系と横浜大手メーカー、浜松町でのF社はそれぞれ一次面接で好感触を経て最終面接に進む段取りとなり、恵比寿のネットワークSEの一次面接を含めた総ての日程は、次週に持ち越された。
ウィークリーマンションの契約は次週半ばで切れるから、その後は新たな住居を探さなければならないが、職場が決まらない事には新しい住居を定められないというギリギリの状況である。
最大の難関は賃貸物件の初期費用であり、現状では当てがない。なんとか手を尽くして調達するしかないが、物件を探している時間そのものにも制約があり、場合によってはしばらくはウィークリーマンションか、安いビジホに滞在する事も考えておかなければならなかった。いずれにせよ残された日は数日しかないのだから、ここが正念場と思って頑張るしかない。
そのようなタイミングを見計らったかのようにして、すっかり諦めていたと思っていた例のコンサルT氏が、またしても復活して来た。
そのようなタイミングを見計らったかのようにして、すっかり諦めていたと思っていた例のコンサルT氏が、またしても復活して来た。
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