2004/07/24

序奏(高校受験シリーズPart4)

 公立の『A高校』へは、推薦された時点で合格はほぼ間違いなしといった状況となり、私立の受験は学校指定の『A高校』をキャンセルし、中部東海地区最高峰である『東海高校』への挑戦も、いよいよ視野に入れ始めた。

男子では、オロチとともにトップ10常連のアクツは『A高』の推薦枠から漏れてしまったが、そのアクツから受験前の或る日、悪友コンビにアプローチがあった。

「なあ・・・オマエら2人は『東海』を受けるんだってなー?
で、学校の下見だけどさ・・・オレも一緒に行っていいかな?」

「まだ、正式に決めたわけじゃねーがな。オマエも『東海』を受けるのか?」

「オイオイ、オレが『東海』のわきゃねーだろ。『愛知』なんだけど、確か『東海』と『愛知』は近いらしいし、このチャンスにオレも有名な『東海』というのを見ておきたくてなー」

「近いっつーても同じ名古屋にあるというだけで、そんなに近くはねーだろ?」(にゃべ)

「ちゅーか、いつの間にオレが『東海』を受けることになってんだ?」

と、ムラカミが抗議した。

「まあどうせ行くんだから、一緒でも構わんが・・・」

というと

「よっしゃー、じゃあ、頼んだぞ。何しろ、ウチのクラスで『愛知』を受けるのは、オレ一人だけなんだよな。一人じゃ、地理もわからんし心細くて・・・」

「まったく甘ちゃんだなー、ナオキは。だが本番の試験の時は、ついて行けんからなー」

アクツは、ナオキという男らしい名前に似合わず色白の優しい顔立ちで、性格的にも一癖も二癖もあるにゃべやムラカミとは対照的に、生意気盛りのこの年頃の男子としては、珍しいくらい素直でおとなしい性格である。一人っ子で甘やかされてきたせいか、かなり気の弱いタイプといえた。

普段からおとなしく目立たないアクツだから、にゃべもムラカミも元々憎からず思っており、またそれなりに親しくもあった。無論この時点では、この思わぬ飛び入り同伴者が、結果的に井の中の蛙であった天才にゃべに、生涯初の悪夢の大ショックを齎すことになろうなどとは、夢にも思わずに・・・

 『A高』への推薦入学が決まった後、挑戦を視野に入れ始めていた私立最難関といわれる『東海高校』とは、どんな高校か?

『東海』といえば、県内200を超す高校の中でも公立の『旭丘』と並ぶ最高峰であるが、定員が400人近い『旭丘』に対し、私立の『東海』の方は一般定員は僅か50人という狭き門(残りの大部分は、付属中学校からの推薦入学者)で、この年は約350人の志願があり競争率は実に7倍であった。

しかも、公立校の滑り止め的な他の私立高の「競争率10倍」などとは違い『東海』の場合は『旭丘』などとの併願者が大半だけに、受験者の学力レベルの高さと試験に対する意気込みは格段の違いがあることは間違いない。

私立の高校の殆んどは名古屋市にあり、日頃から地理不案内なだけに受験前には、学校の下見が義務付けられていた。担任のガンゾーから

「恐らく6組のヒムロも『東海』なんだろーから、一緒に誘ってやれ」

とのお達しがあった。

「なんで、オレが?」

と不満を抱えたまま、この役をムラカミに押し付けようとすると

「オレは『東海』なんぞは受けんから、オマエが誘ってやってやれ」

と逃げられてしまった。

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