「なんだ・・・オマエは『東海』を受けんのか?」
「どうせ入りもせんところを受けても、意味がねー」
「何いってんだ?
今更『愛知』じゃあ、おもしろくもなんともねーだろ」
「そもそも『東海』ってのは、名古屋辺りのボンボンが行くところだろ?
大部分が中学からの一貫組だし、残る1~2割は『旭丘』とかを受けるような、名古屋のトップレベルの連中なんだよな・・・」
「なにを今更、そんなわかりきったことを・・・そもそも受かったとしても、まだ行くとは決めてねーし、そんなの今から考えてどうする?
要は、中部再難関といわれる『東海』に受かるだけの実力が、あるのかないのか・・・それを試す事が目的なんじゃねーのか?」
「それを試してどーする?
普通の滑り止め私立と違って、本命として受けに来るヤツも多いわけだろ?
『東海』ってのはそういった私立校なわけだから、ハナから行く気のねえヤツがシャレで受けるってのは、要するに単なる自己満足に過ぎん・・・」
「人の事情なんかは、この際関係ねーだろ。人には、それぞれの事情があるってもんさ」
「まあ、どうせ結局は『A高』へ行く事になるんだし、オレはやっぱ『愛知』にしとこーと思ってる」
「そりゃ、発想が逆じゃねーのかよ?
どうせ『A高』や『愛知』では、受かるのがわかりきっているんだから、今更受けたってしょうがねーじゃん?
受かる保証のない『東海』だからこそ、敢えてチャレンジする価値があるんじゃねーのか?」
「とにかく、この件でこれ以上の議論は意味がないだろ。オマエはまぁ、精々頑張ってくれや・・・」
といった、いつにない激しいやり取りがあったことも手伝って、元々どうでも良いヒムロの存在などは、すっかり忘れてしまっていた (^。^)y-。oO
冷静に考えれば、ムラカミの言い分にも尤もなところはあるし、確かにムラカミの方は当初から『東海』受験は視野になかったらしい。
「まあ、オマエがどこを受けようが、オレは一度受けると決めたからには、何が何でも絶対に受けるぜ。そして・・・合格したら、向こうに行くかもな」
「そうそう、互いに自分自身の問題だから、干渉はなしってことにしよーぜ。ただ、オレとしてひとつだけ心配なのはな・・・」
とムラカミは一旦、言葉を切った。
「もしもヒムロが合格して、オマエが落ちたら『A高』へ行ったとしても、それを言われるだろうなって・・・」
「何ぃー?
オマエは、オレが落ちると思ってやがるのか?」
思わずかっとなったこちらに対して、ムラカミはあくまでもいつもの通り冷静だった。
「オイオイ、怒るなよ。『もし』って言ってるだろ。あくまで『もし』という前提で、聞いてくれよ。一応、あらゆる可能性を考えてみるとだよ。勿論、可能性としては逆もあるわけだが、ヒムロが落ちるケースはオレにとってはどうでもいいから特に問題にもしなかっただけだから、そう悪く思わんでくれや。決して嫌がらせとかではなく、要するに『東海』受験にはそれだけのリスクを覚悟しないといかんと言いたかった訳だ・・・」
「それは、ご親切なこっちゃ。オマエというヤツは、まったく下らんことにもよー知恵が回るヤローだよ」
と、精一杯の皮肉を飛ばしたものの
「ま、下見だけは予定通りナオキと3人でいこうじゃねーか」
とムラカミは、こちらの反応を予期していたように、あくまでどこ吹く風だった。
「オレは別に、独りでもいいぞ。ナオキの甘ちゃんと違って、オレはどこへでも一人で行けるしな。受けもしないヤツラが、ゾロゾロと見に来るのは邪魔臭いし、皆にも迷惑だろうしな」
「まあ、そう言わんと・・・」
これによって、それまで爪の先ほどもまったく考えた事すらなかった
《ヒムロは合格、にゃべ不合格!》
という悪夢のシナリオが、時折脳裏をちらつく事になった
(;・_・)ノ
(結局、肝心な時には人間は一人ぼっちさ・・・頼れるのは、己の力のみ。チクショウ!
今さら『愛知』に変更など、してたまるかい。たとえ『東海』不合格という、大恥を掻こうとも・・・)
ここに到って、悲壮な決意で『東海』受験に臨まんとするにゃべであった。
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