ブラームスの最晩年に生み出されたこれらのクラリネット作品は、その当時の彼の心境を反映するかのように深い諦念とほの暗い情熱が溢れています。
この深い憂愁の味が、多くの人に愛好されてきました。ところが、友人たちが最もポピュラーな作品になるだろうと予想した三重奏曲は、諦念と言うよりは疲れ切った気怠さのようなものを感じてしまいます。それは老人の心と体の中に深く食い込んだ疲労のようなものです。そして恐らくは、この疲労がブラームスに創作活動を断念させようとしたものの正体なのでしょう。
ところが、わずかな期間を経てその後に創作された五重奏曲には、その疲労のようなものは姿を消しています。
なるほど人は恋をすることによってのみ、命を枯渇させる疲労から抜け出すことができるのだと教えられます。もちろん言うまでもないことですが、恋の相手はクラリネットでした。そして、三重奏曲の創作の時には心身に未だに疲労が深く食い込んでいたのに、五重奏曲に取り組んだ時には、それらは払拭されていました。
もちろん、それでブラームスが青年時代や壮年時代の活力を取り戻したというわけではありません。それは、人生に対する深い諦念を疲労の食い込んだ愚痴としてではなく、きちんとした言葉で語り始めたと言うことです。
第4楽章はモーツァルトと同じく変奏曲形式で、短調に帰りうら寂しさを湛えたテーマが奏される。第1変奏はチェロの進行が美しく、激する第2変奏を経て穏やかな旋律変奏の3変奏。暖かな光に満ちた長調の第4変奏の染み渡る慰めも堪らない。
再び短調になる第5変奏はチェロのピチカートが印象的で、その後は弦楽が第1楽章の第1主題を回想する。そのまま悲しみの底に沈みこむと、二度と変奏曲の明るさは戻って来ずに弱音に終始しながら、息を潜めて音楽の終わりを待つかのようである。最後は一度だけ強奏で主和音を伸ばすと、静寂の彼方へと消えていく。
ブラームスは《クラリネット五重奏曲》のあまりの評価の高さに対し
「自分は《三重奏曲》の方が好きだ」
と言っている。しかしながら《五重奏曲》はブラームスの暖かい秀作であり、楽章ごとに凝縮された内容と明晰な構成が見受けられるのである。
出典Wikipedia
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