その日も36℃は超えていそうな、暑い渋谷に図らずもに行く事になった。指定の時間は、午後3時半。それまでの午前中は予定が無かったので、エアコンの効いたウィークリーマンションでネットなどをしながら時間を使い、ついでに渋谷で昼食を済まそうと空腹を我慢して2時にウィークリーを出ると、暑さでクラクラした。
「こりゃ、堪らん・・・」とボヤキつつも渋谷に到着し、例の如く人込みを縫って冷やし中華を食べると、約束の時間まではまだ間があった。これまでも土地に不慣れなせいで、指定場所につくのに散々まごついてきた経験から、時間に余裕のあるときは早めに行って下見をしておいてから周辺を少し歩く事にしていたが、この時も指定場所となっていた渋谷郵便局がどこか知らなかったため、暑い中を我慢して宮益坂を登っていく事にしたのであった。
目的の郵便局は直ぐに見つかり、まだ約束までは30分ほどの時間があったため、そのまま郵便局を通り越してなおも坂を登っていく。渋谷は「坂の町」とも言われる(後から知った)ように、道玄坂やスペイン坂など「この辺りは坂の付いた地名が多いなー」などと考えつつ宮益坂を登り続けると、登りつめた辺りに歩道橋が見えてきた。
「ありゃりゃ・・・また「坂」地名か・・・」と、暑さで半ば朦朧とした意識(?)で目を凝らして歩道橋を見上げると、ナント『金玉坂』と、デカデカと書いてあるではないか。
(東京も随分と変梃りんな地名が多いところだとは感じていたが、いくらなんでもこの名前は・・・)
とギョッとしたせいか、一気に汗が噴出してきた。しかし、近付いてよくよくみれば『金王坂(こんおうざか)』だった ( ´∀`)タハ
そのまま歩道橋を通り過ぎて、なおも歩き続けると青学大が見えて来た。大学を通り過ぎて(ボチボチ戻らないと、遅れちゃうぞ・・・)とUターンして来た道の反対側を戻ったつもりが、どこでどう間違ったか全然違う通りに出てしまった。約束の時間が迫る中、今度は本当の冷や汗を掻きながら酷暑の中を急いだ。
とかくこの世はままならぬ・・・とは、誰が言ったセリフだったか。技術者としての新天地を求めて上京したものの、求める仕事からはなかなかお誘いが掛からず、逆にお誘いが掛かるのは方向性の異なる案件ばかり。その上、あれだけ名古屋で散々に振り回されてきたコンサル氏とS社からは、今度はかなり熱心に誘われる事になろうとは・・・
無論ここまで来たらS社案件とて、選択肢の一つには違いない。正直な気持ちとしては、独自案件が上手く纏まらなかった場合の保険のようなものであったが、他社案件がなかなか決まらず結局は翌週にS社に付き合う事になったのが、思わぬ展開の始まりである。
「どうせ、いつも上手くいかないんだから・・・」と、半ばは空いた時間潰しの気持ちで元請けとなる大手メーカーN社系列の会社を訪問すると、上位会社のN社役員と担当者が現われ面接はトントン拍子で進んだ。しかも皮肉な事には仕事内容が、予想していたよりそこそこ魅力的に思えた。
そして、その日の夜のうちに早々と「OK」という返事が来たのだったが・・・ところがこのプロジェクトで、正式にN社の前任者と交代となるのは10月後半から11月の始めという、2ヶ月以上も先の話なのである。
「そんな気の長い話には、とても付き合ってられん」
「プロジェクトへの参加はそうなりますが、業務の引継ぎに1ヶ月以上はかかるというのがN社の見解なので、遅くとも9月の半ばごろからは現場に入れるように交渉中です。話の展開によっては、9月の早い時期からとかもあり得ると思いますよ・・・」
この時がまだ、8月の後半に差し掛かって何日も経っていないという時期だったので、いずれにせよどう見積もっても1ヶ月程度は先の話、と言う事になる事に変わりはない。
「そんな悠長な話では、ナントモカントモ・・・」
「元請けのN社のOKが出ているわけだし、もう決まってる話なんだからそこをなんとか、もう少し我慢していただけませんかね・・・」
「それだけ時間の掛かる話では、待っている間にどうなるかも分からない気もするし、どうも信用出来かねますな・・・」
と決め付けるようにして話を打ち切ると、またしても例のコンサルのT氏から電話が掛かって来た。
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