2004/07/16

夏の風物(後編)



ざるそばといえば、今でも思い出すのが高校時代の友人だったK君と、学食へ一緒にそばを食べに行った時の事です。ワタクシは食事のペースが人よりかなり早い方ですが、殊にそばとなると目がないだけに通常ボリュームのものであれば、精々23分もあればズルズルと平らげてしまいます。

ところが、この変人として校内でも有名だったK君は、頭脳は至って明晰(東大理Ⅰへ進学)ながら、普段から気忙しく落ち着かない事この上ない性質の超変人でしたが、食事を始めるや普段のマシンガントークが影を潜め、ひと言も声を発する事もなくひたすらに黙々とそばを啜り、ワタクシがまだ半分も食べたか食べ終わらぬうちに、早々と食べ終わっていたのには驚きました。

(幾らなんでも、メチャクチャに早いやっちゃなー・・・)

と呆気にとられ、何気なく向かいの彼の方に目をやると、ナント薬味を入れた小皿がまったく手付かずのまま残っているではないですか。

「オイオイ・・・オマエが変人だってのは、これまで散々わかっていたつもりだったが・・・薬味を入れずにざるそばを食うヤツは始めて見たぞー。そんなの全然、味がないじゃねーかよ・・・」

と突っ込んでみると、顔色一つ変えぬ彼は

「要するに、そばの味がわかればいいんだろ・・・」

と済ました顔でした。しかも、水もお茶も一滴も飲まずに・・・

 或るそば好きの作家が、いつものように旅先だかでそば屋に入ると、外人の先客がいました。ご存じのように、外国では凡そ (音を立てて食事をするのは行儀が悪い)とされる文化でもあり、またそばという食べ物自体にもおそらく馴染みはないからでしょう。ざるそばをスパゲティともそばともつかぬような中途半端な手つきで音を立てないようにして、なんとも不器用な感じで啜りこんでいたそうです。

 そうしているうちに、作家のテーブルにざるそばが運ばれてきました。すると、この気の小さい作家は、向かいのテーブルに座っている外人さんの手前、なんとなくいつものように盛大な音を立てて啜りこむのが憚られるような強迫観念に駆られ、出来るだけ音が立たないよう慣れない手つきで上品に食べ始めますが、それでもいつもの癖でどうしても音が立ってしまう。すると、向こうのテーブルの外人が

L(>0<)」オーマイガッ!

といわんばかりに、オーバーに顔を顰めながら肩を竦めてみせるので、益々食べ難くなってしまいます。

勝手が違うために食べ難い事は勿論の事、味までが不味く感じられるに及び、次第に

(え~い、バカバカしい。
なんでオレが、外人なんぞに気兼ねをしなきゃならんのだ・・・オレは日本人であり、ここは日本なんだ!)

とすっかり開き直ったその作家は、いつものようにズルズルと音を立てて、そばを啜り始めました。すると向かいのテーブル越しに件の外人さんが、あたかもその作家の食事マナーの悪さを非難するようなしかめっ面をして、クビを振っていたそうです。作家は

(なんだなんだ文句あっか、この毛唐めが。
そばってもんは、そんなお上品に喰うものじゃね~んだぞ。こうして派手に音を立てて啜りこむのが粋だっなもんだっての。

おまえさんなんかが、そばの文化も知らずに非難めいた顔をするんじゃないよー。
ここは日本なんだから、日本流のやり方が気に喰わねーならさっさと国へ帰りなさい)

心の中でこう喚きながら、相変わらず非難めいたしかめっ面で首を振りつづける外人さん視線の圧力を振り払い、キチガイじみた下品かつ盛大な音を立ててそばを啜りこんでいったという、アホらしいけど何となく気持ちのわからなくもないお話でした ┐(´ー`)

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