プロジェクトが始まるまでの待機中は、社内作業である。といっても資料も一向に届かずすることがないため、将来増えてくるらしい研修生向けの教材作成を依頼された。
かつて自分で勉強した時に使ったものなどを焼き直したり、新たにWebで検索したものをそのまま貼り付けたりして簡単に済ませると再びやる事がなくなり、毎日郵便受けに大量に投げ込まれているチラシを持参して、プログラミングの勉強に勤しむ若い研修生たちを尻目に、一人端っこの席で暇を潰していた。
飲食店の宅配や引越し会社、分譲住宅、或いは出前風俗のピンクチラシなどどれも縁のなさそうなものばかりの中で、目を惹いたのは新宿にあるスポーツクラブだった。
日頃の運動不足もさることながら
「体験入会キャンペーン。3回3150円で、ビジターでも全施設を利用出可能」
と書いてあり、施設にはプールやジャグジーなども含まれていたから、風呂好きのワタクシが見逃すはずはない。普段は狭いユニットバスで我慢しているだけに、思いっきり体を伸ばして風呂に浸かるのはなんといっても魅力的である。
引越し前は、住居から比較的近かった千代田区総合体育館で週1回程度汗を流していたが、狭いスペースに作り付けのシャワーしかなかったため不自由を感じていたが、土曜日に訪れたこの民間の施設はさすがに比較にならない規模である。
なにより目を惹いたのは女性客の多さで、総合体育館では若い女性には滅多にお目にかかる事はなかったから、カラフルなウェアに身を包んだ若い女性たちが徘徊しているのを見るの自体、久しぶりな気がする。土曜日という事もあるのだろうが、沢山あるマシンがどれも順番待ちといったような状況であった。
適度に汗を流しお目当てのプールへ行くと、スイミングキャップがないから入ってはいけないという。どうせ体の汗やら香水やらで汚れるのだから、なにも髪だけを問題にする事もなかろうにとは思ったが、フロント脇のレンタルコーナーまで戻るのも面倒だったので、プールは諦めてジャグジーに入る事にした。
ところが・・・である。ジャグジーは、プールと同じコーナーにある。という事は男女兼用であり、したがって水着着用という事なのだった。男女兼用といえば聞こえはいいが、プールと違い抵抗があるのかこちらには若い女性は少なく入ってくるのはオバサンばかりであり、おまけに海パン(実はトレーニング用のトランクス)を穿いたままだから、どうにも風呂に入っている気がしない。それでも広いジェットバスで、思いきり体を伸ばせたのはせめてもの救いと言えたが。
以前は、フリーメールに送られて来るネットの懸賞に片っ端から応募していた時期があったが、どれも一向に当たったためしはなく早々に見切りをつけて一切手を出さなくなっていた。ところが全然訊いたことのない貴金属を扱う会社から、なにかのアクセサリーが当たったという電話が掛かって来た。
「といっても、そんなものに応募した事すら憶えてないんだけどね・・・まあ、くれるというんなら喜んで貰うけど」
「それでは是非、お越し下さい・・・今度はいつ、名古屋に来られますか?」
「ああ、名古屋の会社か・・・少し前から、東京に出て来てるんだけどねー」
「それでしたら銀座に支店がありますので、そちらの方で・・・」
といった経緯で、ガラにもない銀座へ行く事に。
以前にもどこかに書いたが学生時代に上京した時に、新宿辺りをブラブラしたのだったが、当時「プランタン銀座」がちょっとした話題になっており、愛知県に居たワタクシもその名を耳にしていただけに、その時もプランタンの前をわざわざ歩いたくらいであった。銀座を歩くのはそれ以来だから、実にン年近くぶりという事になる。
「Mapion」で確認したおいた場所は、そのプランタンの角を曲がり、松屋を通り過ぎた昭和通沿いとあったが、余所者の頭では「松屋」といえば牛めしの松屋しかないから、あのデカイ松屋デパートを知らずに素通りして
(松屋なんてないぞー・・・吉野家はあったけど・・・)
とオオボケをかましながら、夜の銀座を彷徨っていた。
仕方なく電話で場所を訊き、まったく縁のなさそうな洒落た感じのエントランスをくぐって来意を告げると女性の店員が出て来て、シルバーのブレスレッドをもらったのである。
「貰ったら後日、何かを奨められるという事はないよね? 自分は貴金属とかには、まったく縁のない人間だから・・・」
と念を押しておいた通り、普段は指輪はおろか腕時計すら付けていない。学生時代や若い頃は、人並み以上に格好をつけてネックレスだのブレスレッドだのをしていたが、元々肌が異常にデリケートな体質なので安物をつけると直ぐに被れてしまうのである。
腕に至っては時計すら邪魔に感じて付けていないくらいだから、ブレスレッドなどは20代半ば以来十年以上は無縁だったが、折角だから付けてみようかと思いつつ、久しぶりの銀座の夜はラーメン屋で夕食を済ませることに。
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