2004/07/01

夏の風物(前編)


きしめんもそばも大好物だが、冬場に食べるオーソドックスなものよりは、実のところ夏場の「ざる」の方が遥かに好みである。夏バテなんぞとは一切無縁とはいえ、真夏の暑い時にはやはり簡単な食事で済ませたくなる場合が多いから、勢い昼食においては週の半分程度は「ざる」もしくは「冷し中華」等で済ませてしまう。これまで食べてきた無数にある店の中でも最も旨いと感じたのは、名古屋駅裏にある個人営業のAという老舗だ。

この店は、そばもきしめんも同じくらい旨いため、さして大食いというわけでもないワタクシは、いつもどちらを食べるべきかとハムレットの心境よろしく迷いに迷った挙句、大抵は「相のり」という、そばときしめんが半々に盛られた(様々な呼び名があるようだが、一般的には「相盛り」と呼ぶ店が多いようだ)のを食べる結果と相成った。さらに、お金がある時に張り込むのは「天ざるきしめん」。大ぶりのエビが2尾にシイタケ、かぼちゃ、サツマイモ、のり、しその葉、ナスなど、揚げたてホカホカの天ぷらを食べながら飲む日本酒は、まことに至福の歓びとしか言いようがない。きしめんは2段重ねになっていて、上の段にはノリが塗してある。このような場合、普通の店では二段目を食べるころにはそばつゆがすっかり薄まってしまい、味が格段に落ちてしまうのが欠点だが、この店の賢いところは下の段のきしめんに黒ゴマが塗してあり、このゴマのピリッとした隠し味が薄くなりかけたツユを絶妙に補っているのである。

かつてマスコミ関係の仕事をしていた頃、某有名デパートが「グルメ館」という別館をオープンし、その時に取材に訪れて知り合ったデパートの広報課長と思わぬ「そば談義」で意気投合した結果、「友人」としてご馳走をしてもらった事があった。その時は、先方の奢りでしこたま飲ませてもらったので、後日お礼にと今度はワタクシの方がこのAという店に連れて行くと、このそば通で鳴る課長も

「お世辞抜きで、こんな旨いそばは私も初めてだ。

う~む・・・確かにそば自体の色艶からして違うわ」

と、職種柄様々な店を食べ歩いてきたこの食通も、すっかり満足の唸りも鳴り止まぬというテイだったくらいである。

 某有名デパートのグルメフロアと、名古屋駅新幹線地下街などに店を構える「よしだ」という店は「えびおろしそば(きしめん)」が格別旨いし、サカエ地下街にある名前は忘れたが少しばかり薄汚い店も、本ワサビを添えて出してくれる美味しい店で、これらの店はいずれもワタクシが20歳そこそこの頃に初めて開拓した店ばかりでありながら、今もってベスト3に数え上げられる。

ところで「ざるそば(きしめん)」といえば、そばや麺そのものの味が最も大事なのは言うまでもないが、それと同じくくらいに大事なのが「そばつゆ」であり、またそこに入れる「薬味」も重要な脇役と言えます。名古屋の大抵の店では薬味としてワサビを添えてきますが、店によってはワサビではなく生姜だったり、或いはワサビと生姜の両方が付いて来るところもあります。煎りゴマや擂りゴマと刻みネギ、そして麺に乗っている刻みノリなども定番と言えるでしょう。  

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